IT業界の就職・転職活動をする上で、NTTグループ内で最も有名かつ収益が高い「NTTドコモ」の現在の業績が気になる方も多いのではないでしょうか?
本記事を読むことで、
- NTTドコモの企業理解が深まる
- NTTドコモの面接を受ける際の参考になる
といったメリットがあります。
そこで、今回はNTTドコモの業績や各サービスの戦略解説・今後の将来性まで、企業理解を深めるために必要な情報を紹介します。
ITに詳しくない方でも理解できるよう、なるべく専門的な用語を使わずに解説します。
NTTドコモの業績
まず、NTTドコモの業績を簡単に解説します。
すべての事業をあわせた売上高は2020年度上期よりも337億円増加、フリー・キャッシュ・フロー(自由に使えるお金のこと)も2622億円増加と一見好調にみえます(上図参照)。
しかし、事業領域別(※事業内容についてはこの後詳しく解説します)に業績をみると実態がわかります。
まず、通信事業は営業利益がマイナスと不調であることがわかります。これは、2018年に「携帯料金を4割程度下げる余地がある」と当時の菅官房長官が発言し、2020年政府による「携帯電話料金の値下げ」要請を受けてahamoなどの安価な料金プランを展開したためです。
そして、スマートライフ事業(記事の後半で説明)は減収減益、その他の事業は増収増益となっています。
ちなみにスマートライフ事業の減収減益は、dポイントの会員数を増やすためにCMなどの積極的なプロモーション活動によるものです。
まとめると、全体の業績は好調にみえますが、通信事業の不調によりスマートライフ事業・その他の事業の収益拡大をどこまでできるかがカギといえます。
企業の概要
- 株式会社NTTドコモ
- 社員数:8,433名
- 1991年設立
- 通信キャリアのシェア率1位
- 企業理念:新しいコミュニケーション文化の世界の創造
NTTドコモはKDDI・ソフトバンクと並ぶ大手携帯キャリア会社として有名ですが、dポイントやdカードなど非通信事業への取り組みも強化しています。
理由として、携帯事業の収入減とコロナ禍での生活スタイルの変化があります。携帯事業の収入減は、※「携帯電話料金は4割引き下げられる余地がある」という政府の意向を受けてお得なプラン(ahamo)を展開したことによるものです。
2018年に「携帯料金を4割程度下げる余地がある」と当時の菅官房長官が発言し、2020年政府による「携帯電話料金の値下げ」要請を受け、各社料金プランを一斉に引き下げた。
グループ会社との関係性
NTTドコモはNTTグループ内の1つの企業であり、グループ内では最も有名です。
また、上図にあるように、NTTドコモ(法人営業に弱い)は2022年1月にNTTコミュニケーションズ(法人営業に強い)・NTTコムウェア(システム開発に強い※)の2社を子会社化しました。
法人向け事業の中には、NTTドコモが法人にシステムを開発・販売することも含まれているため、NTTコムウェアの子会社化によりスムーズにシステムを運用・開発できると考えられている。
理由は法人事業を強化し、収益構造を改革するためです。
現在は売上の約78%を占める通信事業ですが、通信料金はどんどん安くなっているため、通信事業の収益拡大は厳しい状況です。
そこで法人向け事業を新たな収益の柱とするために、NTTコミュニケーションズ・NTTコムウェアの2社を子会社化したのです。
NTTドコモの事業内容
NTTドコモの事業は、「通信事業」「スマートライフ事業」「その他の事業(主に法人向け事業)」の3つです。
通信事業の収益減により、現在はスマートライフ事業と法人向け事業を拡大している点が特徴です。
事業①通信事業
通信事業は、売上の約78%を占める中心的な事業です。
主にモバイル通信サービス(ドコモ)・光通信サービス(ドコモ光)を提供しています。特に、モバイル通信サービスの契約数では長年トップを維持し、安定的な収益を確保しています。
しかし、日本の人口減少や政府の意向による携帯料金の引き下げにより、通信事業の今後の成長は見込めないでしょう。
そこで、これから紹介するスマートライフ事業・法人向け事業の強化を進めています。
事業②スマートライフ事業
スマートライフ事業は、通信事業の収入源をカバーするために現在NTTドコモが注力している事業です。
具体的な事業内容は、以下のとおりです。
- dポイント
- dTV(動画コンテンツサービス)
- d払い・dカードなどの金融・決済サービス
現在のスマートライフ事業の売上比率は約13%ですが、通信事業の成長が見込めないため、CMなど積極的にプロモーション活動を実施しています。
事業③その他の事業|法人向け事業
その他の事業では、以下を扱っています。
- ケータイ補償サービス・あんしん遠隔サポートなどのあんしん系サポート
- 法人向け事業
特に、NTTドコモは法人向け事業の拡大に注力しています。
通信業界の法人向け事業:企業に対して企業向けの固定電話やインターネットサービスを提供する。また、通信会社が持つ幅広い商材(AI・通信機器・クラウドサービスなど)を駆使して、法人のDXを多角的に支援する。
理由は以下2点です。
①コロナ禍によるDXの需要増
②安価な料金プラン提供による通信事業の収益減
法人向け事業についてもう少し詳しく解説します。法人向け事業の内容は主に2つです。
①5G・XRなどを活用した法人・個人の課題解決
②中小企業のDX支援
①は、異業種と協同しながらエンドユーザー(商品・サービスを実際に使う人のこと)に高付加価値なサービスを提供することを指します。
例えば、通信×医療業界の場合、スマートグラスによる遠隔医療支援のサポート、通信×観光業であればオンラインVRツアーの提供サポートなどが挙げられます。
スマートグラス:メガネのような形状で、目の周辺に装着して使用する最先端IT機器の1つ。
②は、中小企業がDX推進に必要なサービスを選びやすくするために「ビジネスdxストア」というオンラインストアを提供しています。
各サービスの戦略解説
①通信事業の戦略
通信事業は、幅広く顧客を獲得するためにさまざまな料金プランを提供し、顧客の数を増やす方向性です。
ちなみに、NTTドコモの通信事業における3つの顧客層と各層への打ち手は以下の通りです。
顧客層①大容量・高価格を求める層:5Gギガホプレミア、ギガホプレミア
顧客層②中容量・中価格を求める層:ahamoなど
顧客層③低容量・低価格を求める層:他社のようにサブブランドの展開予定はなし
※サブブランド:大手キャリアにおけるサブブランドとは、メインのブランドとは別に低価格のブランドを提供すること。ソフトバンクであればメインブランドはソフトバンク、サブブランドはYモバイル。
「顧客③の層はどうするのか」と疑問に思った方も多いのではないでしょうか?
NTTドコモは、顧客③の層に対しては他社のようにサブブランドを展開するのではなく、dアカウント・dポイントとの連携を条件にMVNOにドコモの回線を提供しています。
これにより、スマートライフ事業への加入者を増やし、通信事業メインの収益構造から脱却したいと考えています。
MVNO:ドコモ・au・ソフトバンクの3大キャリアから回線を借り、格安で独自サービスを提供する事業者のこと。マイネオなど。ちなみに、MVNOに対して大手携帯電話会社(ドコモ・au・ソフトバンク)はMNOと呼ばれる。
②スマートライフ事業の戦略
スマートライフ事業では、個人向け医療サービスの提供を拡大することにより、収益増を狙っています。
前述したように、現在のスマートライフ事業は
- dポイント
- dTV(動画コンテンツサービス)
- d払い・dカードなどの金融・決済サービス
の3つがメインですが、顧客の日常生活をより快適にするサービスの拡大により、スマートライフ事業のさらなる収益増加を目指しているのです。
具体的には、オンライン診療・服薬指導アプリ「CLINICS」を株式会社メドレーと共同で提供しています(2021年12月7日~)
「CLINICS」のポイントは、dアカウントを連携するとポイントが進呈されることです。つまり、「CLINICS」の提供によりスマートライフ事業の拡大を図ろうとしているのです。
③その他の事業の戦略|法人向け事業
その他の事業のメインである法人向け事業では、NTTドコモ(法人営業が弱い)が法人営業に強いNTTコミュニケーションズと、システム開発に強いNTTコムウェアを子会社化したことにより、法人のDX支援を加速する戦略です。
そして、2025年度には法人事業の2兆円以上拡大を目指しています。
NTTドコモの強み・弱み
ここまでNTTドコモの業績や各事業の戦略を紹介しましたが、「NTTドコモの強み・弱みは何?」と疑問に思う方もいるかと思います。
ここでは、NTTドコモの強みを3つ、弱みを1つ解説します。
強み①通信品質の高さ
NTTドコモは通信品質が他社よりも優れているため、国内の携帯シェア率トップを長年維持しています。
では具体的にどう通信品質が高いのでしょうか?
上の図によると、ダウンロード・アップロードともに通信速度が3社の中でトップであることから、通信品質が非常に高いことがわかります。
強み②8,000万契約を超える顧客基盤
NTTドコモは、8,000万契約を超える顧客基盤も強みです。
電気通信事業者協会の「携帯電話・PHS契約数」統計によると、NTTドコモは国内の携帯電話契約数の44%(8000万契約)を占め、大手キャリア(KDDI・ソフトバンク)の中で1位です。
そして、ドコモの携帯電話の利用者はdポイント・dカードといったサービスに加入するため、スマートライフ事業の収益増加が期待できます(現在は積極的なプロモーション活動により収益源)。
強み③圧倒的な研究への投資
ドコモは、5G・6Gなどの最先端技術への投資を積極的に行い、結果を残しています。
実際、高品質なネットワーク開発への取り組みを評価する「5G標準化規格特許候補保有率」では世界第3位となり、世界の通信事業者の中ではトップと評価されました。
6G:6Gは5Gの進化版で、2030年ごろに導入される通信システムです。5Gで実現する自動運転や遠隔手術において、より安定した通信が可能になり、安全性アップにつながります。
また、NTTドコモは6Gの技術を活用したサービス開発にも積極的で(「最新のニュース」で詳しく紹介)、ネットワークで人間の感覚を拡張する「人間拡張」を実現する基盤を世界で初めて開発しました。
このように、最先端技術に積極的に投資している点もNTTドコモの強みです。
弱み|法人向け事業の出遅れ
ドコモはKDDI・ソフトバンクよりも法人向け事業のスタートが遅れたため、法人向け事業は弱点です。
前述したように2022年1月に法人事業に強い2社の子会社化により、法人向け事業の拡大に本腰を入れていますが、先に始めていたKDDI・ソフトバンクにどこまで追いつけるのかが今後の課題です。
最新ニュース|6Gの技術活用に積極的
NTTドコモは、ネットワークで人間の感覚を拡張する「人間拡張」を実現する基盤を世界で初めて開発しました。(※他社の協力を得て開発)
「人間拡張」技術により、過去の人物の動作を現在の人間で再現するなど、熟練者の技術の継承にも期待できます。
将来的には、動作だけでなく感情や五感も共有できるよう機能を拡張し、社会課題の解決に貢献していく考えです。
このニュースから、2つのことが読み取れます。
まず1つ目ですが、ドコモは6Gの技術を活用したサービス開発を他社よりもリードすることで、携帯事業の依存から早急に抜け出そうとしています。
2つ目について、ドコモの強みである圧倒的な研究への投資が結果につながっていることも分かります。
参考:ドコモ報道発表資料
今後の予測
政府の意向により通信料金はどんどん安くなっているため、スマートライフ事業・法人向け事業の収益拡大により、通信事業一極集中の収益構造からの脱却をすすめるでしょう。
ちなみに、5Gが全国的に普及すれば顧客のデータ使用量が増えるため、「データ容量無制限・高価なプラン」の需要が伸び、通信事業の収益改善も期待できます。
しかし、5Gが日本全国に普及するにはまだ時間がかかるため、しばらくは通信事業以外の2つの事業に注力すると予想します。
最後に、NTTドコモがどのような人材を求めているのかについて、主観ではありますが予測します。
NTTドコモは通信事業よりも法人向け事業などに力を入れていると紹介しましたが、それを考慮すると転職者であればBtoB(法人)営業経験のある方、就活生の場合は6Gや法人事業に関心がある方が求められるでしょう。